大手鑑定事務所での証券化不動産の鑑定評価実務

大手不動産鑑定事務所に入社すると、最初に任される仕事として多いのが証券化不動産の継続鑑定評価ではないでしょうか。

日本不動産研究所大和不動産鑑定谷澤総合鑑定所、この3社は一般的に不動産鑑定業界大手と言われています。今回は、大手鑑定事務所の寡占状態にある証券化不動産の継続評価の実務をご紹介します。

証券化不動産の継続評価は、前任者が役所調査をはじめ、対象不動産の権利関係、市場分析、利回りの決定など対象不動産の論点をすべて整理してくれているため、不動産鑑定未経験の方でも、重大なミスが発生しにくく、最初の案件として任されることが多いです。

証券化不動産の鑑定評価は、上場REITだと半期に一度、私募REITだと四半期に一度、私募ファンドだと四半期〜半期に一度と、鑑定評価を取得することが運用会社に義務付けられており、鑑定評価額が投資法人のIRに記載されるため、大手の鑑定業者によって寡占状態となっています。

それでは、見ていきましょう。

1. 資料の受領

まず、案件を受任すると、フロント (案件の取りまとめ役) を通して、鑑定評価に必要な資料を受領します。資料の受領は数回にわたりますが、受領した資料で一番最初に確認すべきはレントロール (RR) です。RRはPM会社が作成した月次報告書、通称、PMレポート (Excelファイル) の中に入っています。

証券化不動産の場合、収益価格が鑑定評価額となり、当たり前ですが、賃料が鑑定評価額を形成するため、RRの内容は入念に確認し、正確に転記 (コピペ) しなければなりません。

レジなどテナントが多数入居している場合、ミスが起きやすいのですが、ここでミスを冒して後で気づいた時には鑑定評価額も変わってしまうことがありますので、最も肝心な作業です。

なお、上場REITの場合、6月(・12月) 決算であることが多いため、採用するRRは4月又は5月 (10月又は11月) のものとなります。

2. 実査

まずは、担当者と連絡を取り実査の日程を調整します。立会者は、PM会社又はBM会社あるいは両者であることが大半ですが、対象不動産がホテルやリテールなどのオペレーショナルアセットの場合、総支配人や店舗マネージャーも一緒に立ち会って頂けます。

なお、AM会社は証券化不動産の取得時以外は滅多に立ち会いすることはありません。

継続評価の実査では、前回評価から今回評価までの間に大きな変更があった箇所を中心に見ることとなります。また、必要に応じて、テナントのリーシング状況などの物件のソフト面に関してはPMの担当者へ、今後の修繕予定などの物件のハード面に関してはBMの担当者へヒアリングをします。総支配人や店舗マネージャーの立ち会いがある場合は、ホテル運営や店舗運営に関してヒアリングの時間を別途設けて頂けることがありますので、ヒアリングしたい事項を当日までにまとめることとなります。

3. 質問&査定

実査で把握しきれなかった事項は、後日担当者に質問をすることとなりますが、大手鑑定事務所の場合、実査後の質問は期限までにまとめてAM会社に質問をすることになります。

質問の回答が返ってくるまでの間、同時並行で査定を進めます。

といっても、継続評価においては、前回評価との査定方針の整合性が求められますので、変更を加えるべき箇所は限られます。

収益は、RRを基にアクチュアルを入力し、空室部分はアットホームなどから賃貸事例を収集し、長期的に収受可能な賃料を査定します。とはいえ、当該賃料は評価の時毎回変更すべきではありませんので、実質的には前任者が査定した当該賃料が、今回評価時においても収受可能かどうかを判断する作業に留まります。

費用は、固定費と変動費に分かれますが、固定費は実額を入力し、変動費はLTMで平均するなどして査定します (LTMが適切でない場合もあります)。

利回りは、前回評価時からの不動産市況の変動を反映します。実務では、日本不動産研究所が半期に一度発表している「投資家調査」における期待利回りの半期変動分を反映させます。

4. 経過報告 (価格の決定)

査定が終了したらフロントを通して経過報告をします。この段階では、鑑定評価書までは必要ありません。あくまでも鑑定評価額を依頼者に伝える段階となりますが、経過報告終了後は、価格の変更は望ましくありません。

ただし、経過報告後に質問の回答が返ってきたり、新しいRRを受領した結果、価格の変更が生じた場合は、その旨伝えれば構いません。

5. 評価書ドラフトの作成・提出

価格が決まれば鑑定評価書のドラフトを作成します。これも査定と同じく、変更すべき箇所は限られてきます。

用途地域や駅距離などの個別的要因、適用する手法、鑑定評価額の調整などは不変ですが (もちろん、前任者の作成した評価書に明らかなミスがあったり、用途地域が変更されたりしているときは修正・変更します)、マクロ経済指標などの一般的要因や対象不動産が存するエリアにおける賃料・空室率の動向などの地域要因がアップデートされていますので、それを評価書に反映します。もちろん鑑定評価額も反映します。

なお、継続評価ですと、前任者の作成した鑑定評価書があるため、それに上書きする形となりますので、ドラフトの作成自体はそれほど手間はかかりません。

ドラフトが完成すると、フロントを通して依頼者へ確認してもらいます。依頼者は評価書の誤字・脱字のほか一般的要因や地域要因がアップデートされているかどうか、経過報告時と価格が変わってないかどうかを確認して、問題なければ成果品の納品を要求します。

6. 成果品納品

依頼者からGoが出たら成果品の作成に移ります。成果品では、ドラフトからの修正や依頼者からのリクエスト (文章の表現など) を反映、附属資料を添付し、署名をして完成となります。大幅な変更と署名以外は、事務職が担当することが多いため、事務職が鑑定評価書の製本をして鑑定士がその内容を最終確認し、案件終了となります。

なお、大手鑑定事務所の場合、フロントが全物件の評価書を運用会社の担当者にまとめて納品するので、地方支社は本社に成果品を郵送で送ることで案件が終了します。

最後に

と、大手鑑定事務所での証券化不動産の鑑定評価の実務をご紹介しました。

中堅以上になってくると、10件以上並行で行うこともザラにあります。

私は入社当初は知識を積み上げようと1つ1つの案件に丁寧に取り組んでいたのですが、納期までの時間的制約もあることから、徐々に効率を重視するようになり、期限内に終わらせることが第一目標となっていきました。

そのようなこともあってか、大手鑑定事務所では、J-REITが発足する前と比較して、1つの案件 (不動産) に対して深く追求する時間を確保できないことから、若手の底上げができていないといった声も聞こえてきます。

これから大手鑑定事務所で勤務される方のご参考になれば幸いです。

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